第2回 東京公共交通オープンデータチャレンジ に応募した「まよワン!じっこくん」の連載記事の第3回です。
東京公共交通オープンデータチャレンジに応募してみた
「まよワン!じっこくん」とは?(アプリケーション説明とアーキテクチャ概要)
デザインシンキングでアプリ要件を考えてみる(デザインシンキング) ← ココ
チャットボットの開発(SAP Conversational AI)
SAP CP上でのバックエンド開発(Node.jsとSAP HANA)
SAP CPで開発したアプリをJenkinsでDevOps
第2回ブログでも触れられていますが、今回のオープンデータチャレンジでは、全盲の視覚障がいを持ちながら、毎日自宅から会社まで電車通勤をされている方(Sさんとします)にご協力をいただきました。実際に日々困っていること、健常者にはなかなか気づくことのできない問題点を情報収集することができ、それがじっこくんの開発につながっています。
このデザインシンキング編では、Sさんとの情報収集から始まり、デザインシンキングを経て、時刻表チャットボットというアイデアが選定されるまでの流れを書いています。
情報収集1:通勤経路同行
まず最初に、Sさんの通勤現場(会社からの帰途)に同行し、様子を観察させていただきました。移動の難易度は超高いのであろうと想像はしていましたが、点字ブロック付近に障害物(人や荷物)があってぶつかりそうになったり、点字ブロックが途切れていて、少しの距離でも探すのが大変だったり、毎日がサバイバルな通勤をされているんだと実感しました。またエレベーターが来ても音がしないのでわからないとか、インフラ側で視覚障がい者の利用が考慮されていないこともたくさんありそうです。
(親子連れに避けてもらったり、点字ブロックが途切れていて困ったりする現場)
情報収集2:インタビュー
次にSさんに公共交通機関をつかった移動についてインタビューをさせてもらいました。具体的な情報をたくさんいただいて、非常に有益だったと思います。
1. 移動で困った経験
突然腕をつかんで引っ張られることがある。白杖を持ち1人で歩いている人は、通勤通学途中で、自分ルートを把握しており、例えば「階段降りてから110歩のホームドアで乗る」など乗車位置まで決めていることが多い。突然コンタクトされると動揺してそのカウントや方向がわからなくなってしまう。
2. 初めての場所へ行くとき
事前準備としては、時刻表をスマホで確認する。まずは到着時間を指定して路線検索。もろもろのバッファを考慮して出発時間を決定。再度出発時間で路線検索し、本当に乗る時間(駅員さんに伝える時間)を決定する。
当日、まず最寄り駅で、「A駅まで行き山手線に乗り換えてB駅のC改札まで行きたい」と予定の経路を伝える。→ 駅員さん同士で連絡が取られ、A駅で降りるとそこに駅員さんが待っていて、山手線改札まで同行し、JRの駅員さんへバトンタッチ。同じようにして目的地まで送り届けられるのだそう。帰りも同じようにして帰ってきます。
3.普段使うスマホアプリ
よく使うのは、Line、Facebook、楽天。音声読み上げを有効にしていると非常に重くなるため、アプリはあまり入れないようにしているそうです。
この時、スマホでの時刻表・路線検索のやり方を見せてもらいました。まずWebでYahoo路線検索を呼出し、音声読上げで文字を入れるべき場所を認識し、文字を手入力するのですが、入力箇所が複数あって、いちいち探す必要があります。また検索した結果を音声読上げで聞くのですが、検索結果だけでなく、「画面上は見えないけれども埋め込まれている様々な煩雑な情報」が全て読まれてしまうため、それらがノイズになり、検索結果の把握自体に非常に時間がかかり、ストレスも大きいことがよくわかりました。
VIDEO
デザインシンキング
視覚障がい者の方の公共交通機関利用に関して、2度の情報収集を経て、実際の大変さを目の当たりにし、知らなかったことをいろいろ教えていただいて、目からウロコがバラバラと落ちました。全員が情報収集に参加できていたわけではないので、それらの情報を共有するところから始めました。
デザインシンキングは2グループで実施しました。それぞれ、「弱視の長時間電車通勤のシステムエンジニア」「全盲のバス通勤の盲学校の先生」のペルソナを作り、デザインチャレンジを定義し、素敵そうなアプリケーション要件をまとめました。更に、Sさん含め2名の視覚障がい者の方にそれらを共有し、フィードバックをいただいて、以下のリストとなりました。
それはいい!激しく欲しい!というフィードバックをもらったアイデア:
案内板や時刻表を読み上げる機能(LINEのような会話形式で入力がシンプルなアプリ)
電車の号車・ドアの番号を教えてくれる機能
点字ブロックのあるルートで乗換案内してくれる機能
事前に登録した予定の経路を外れると通知が来る機能
事前に乗車予定のバスを決定すると、スムーズに乗車できるようになるよう、そのバスの運転手に乗車予定が事前通知される機能
あったら楽しい、嬉しい!とフィードバックをもらったアイデア:
健常者に視覚障がい者へのマナーを教えるゲーム。例えばARで点字ブロックの上に乗ると、ドラクエのバリア床のようにダメージを受ける
電車が近づいてきたら、楽しい音で知らせる機能
想定通りのバス・電車に乗車できると「移動成功!」を通知する機能
アイデア絞り込み
激しく欲しい!とフィードバックされた要件を検討し、情報収集で時刻表検索が大変そうだったことからも、時刻表検索をLineで行うという機能が多くの賛同を得て、メインの機能として選定されました。ここから開発フェーズが始まっていきます。
<メイン機能>
時刻表をLINEで読み上げ
会話形式で各時刻表&電車の種類を返す
<アプリコンセプト>
必要な情報を会話で音声で返してくれる
LINEで既にやり取りしているので、裏のBotをRecastで作成する
事前に通勤経路を登録できる
他に激しく欲しがられた、乗っている電車が何号車か教えてくれる機能も、ビーコンを使って技術的には実現可能と考えました。今回選定には至りませんでしたが、どこかの鉄道会社で実現していただきたいです。
追加機能選定(WOW!アイデア)
後々になりますが、メインの時刻表検索機能が出来てきたところで、追加機能開発のアイデア出しもやりました。あると嬉しい機能、必須じゃなくても使う人がWow!ってなりそうな機能を考えた結果、以下の機能が実装されました。
いつもの路線検索
最初の挨拶・口調を変える(関西弁、ねこなど。最終的にはいぬ語を実装)
めっちゃほめてくれる
フィードバックで、機能として必須じゃないけど楽しそうだから欲しい!というコメントがけっこうあり、楽しい嬉しい要素は重要と思っています。ほめる機能は開発メンバーもみんなはまってました。
デザインシンキング編は以上です。読んでいただき、ありがとうございました。
長くなってしまいましたが、割愛したエピソードも多いです。質問などあれば遠慮なくお知らせください。