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RISEのインフラ運用業務


RISE with SAP(以降RISE)を活用したS/4HANA Cloudへの移行事例が増えてきています。それは同時に、S/4HANA Cloudという新しいクラウド環境でのインフラ運用が始まっているということでもあります。少し古い図ですが、下図のようにS/4HANA Cloud(private edition)ではそのインフラ運用をSAP社が担っています。今までユーザーが担当していたBasis作業を、サービスリクエストを通して依頼すれば実行してくれるという便利なスキームです。


このインフラ運用タスクの内容はRole and Responsibility(以降R&R)に定義されています。50ページ以上に渡る資料なので確認するのも一苦労ですが、数多くの運用がカバーされていることが分かります。しかし、SAP社はここに記載の運用全てを実施してくれるわけではなく、その中で「標準サービス」に分類されるものを実施してくれます。これはR&R資料全体のおよそ5割に留まっており、裏を返すと残り5割は対応してくれません。

仮にRISEに移行した場合、現在の自社インフラ運用を同等に維持できるのかは、ユーザーにとってとても大きな関心事です。自社インフラ運用が「標準サービス」でカバーできない場合はどうするのでしょうか?SAP社は、このような時に運用カバー範囲を広げられるCloud Application Services(CAS)を用意しており、private editionで提供しています。今回は、RISEインフラ運用を補完するこの”CAS”に焦点を当てて綴ってみたいと思います。

*この記事は SAP Advent Calendar 2023 の12月22日分の記事として執筆しています。

 

標準サービスとCASの使い分け


R&Rを見ていくと、「標準サービス」以外に「CASまたは顧客」という分類の運用タスクがあります。これは、CASを契約してSAP社に運用を依頼するか、CASは契約せず顧客が自身で運用するかを選択できるタスクです。

この「CASまたは顧客」。どちらかを選べるので悩んでしまいます。CASも複数種類があるので更に悩みます。極力運用をSAP社に寄せたいと考える場合には、そもそもCASが必要なのか、必要な場合はどのCASを契約するのかを検討しなければなりません。(完全にPersonal Insightですが)どのようなアプローチで考えていくのが良いかをシンプルに整理してみました。


 

R&Rの分類では、「CASまたは顧客」の他にも「オプションサービス」、「追加サービス」に分類される運用タスクが存在します。いずれも通常運用から外れるようなワンショット、もしくは頻度の低いタスクです。また、「対象外タスク」に分類される運用タスクも一定数存在します。SAP社はそれらのタスクは行わないことを明示しており顧客での対応が必須になってきますが、実施の必要性は低いものが多いと思います。上記の検討フローのように、標準サービスの利用を軸に考えながら、それを補完するためにCAS要否を検討するアプローチが一つの方法です。

この検討/整理のベストなタイミングはいつでしょうか?RISE契約前であることに間違いはないのですが、現行のインフラ運用業務の粒度は個社ごとに異なります。R&Rに記載の内容と照らし合わせるだけではカバーできるのか判断が難しく、個別に詳細確認をしていかなければならないケースもあり大変な作業です。RISEでは基本的なインフラ運用項目は標準サービスでカバーしてはいるため、契約後の運用開始前にCAS要否を検討するケースが多いのではないかと思います。

 

標準サービスの注意点


確かに一般的なインフラ運用タスクは標準サービスでカバーできることになっていますが、カバーして欲しい内容が含まれていない運用項目もあるため注意が必要です。下記がその一例です。

































インフラ運用項目 標準サービス内容 注意点 対応策
ジョブ監視 標準ジョブの監視 ユーザ定義ジョブの監視は対象外

CAS(Application Operations)の契約

または顧客
ノート適用 セキュリティノートや不具合対応ノートの適用 左記に該当しないアプリ関連ノート適用は対象外

CAS(Application Operations)の契約

または顧客
バックアップ 定常バックアップの実行 臨時バックアップ取得は対象外 追加サービスの契約
・・・etc.

このように、運用項目のタイトルでは標準サービスとしてカバーされていたとしても、痒い所に手が届かないものが散見されます。その他、環境構築にも制約が付けられているものがあります。身近な例としてはクライアントコピーで、コピー元のクライアントサイズが500GBまでという制約があります。システムリフレッシュも、同一システム(SID)で年6回まで、かつ同一リージョン内での作業に限られます。加えて、実行必須の前処理/後処理作業は含まれません。標準サービスの活用を考える際は、運用項目のタイトルだけではなく、その中身と自社インフラ運用を照らし合わせて考えていくのが得策です。

 

代表的なCAS: 「Application Operations」


2023年12月現在、21個のCASが存在しています。(CASの定義書一覧)

様々なCASがありますが、RISEインフラ運用の標準サービスを補完するという観点では、「Application Operations」が最たる選択肢となります。このCASを契約すると、先述したユーザ定義ジョブ(=アプリジョブ)の監視をカバーしたり、システムリフレッシュの前処理/後処理をカバーしたりすることができるようになります。Application Operations以外のCASは、RISEインフラ運用以外の用途で準備されているため除外ができるはずです。例えば、BTP環境の基本セットアップを目的としたCAS、システムアップデート後の回帰テストを目的としたCASなどです。

また、個々のCASごとに異なるサービスレベルが定義されているため、それらの理解も大切です。Application OperationsのCASに定義されているサービスレベルは以下のとおりです。

■対応言語とサービス時間















対応言語 サービス時間(本番機)
英語 7 日、1 24 時間
日本語 月曜日から金曜日の午前 9 時から午後 6

依頼作業はサービスリクエスト画面を通して行うため、標準サービスの依頼と同様に英語が基本となります。日本語は、RISE運用の窓口となるSAP社担当:Client Delivery Managerが間に入るため、サービス時間はどうしても限られてしまいます。

■優先度の考え方























依頼の優先度 サービスレベル
最優先 20分
優先 2時間
4時間
1 営業日現地時間

CASの作業依頼の優先度は、インシデント対応(OSS)と考え方は似ています。

 

Application OperationsのCASの場合は、1契約につき使用できるチケットは24依頼分までで、有効期間は1年間となっています。この枠を超える場合はCASの追加購入が必要になるため、計画的な利用が求められます。加えて、CASの中にも役割分担(RACI)があり、顧客もチケット対応のために幾分かの工数が必要となります。しかし、標準サービス+Application OperationsのCASを組合わせて上手く活用できれば、思い描く自社インフラ運用の実現に近づけるようになるのではないでしょうか。

 

おわりに


世の中で始まっているRISEのインフラ運用業務に焦点を当て、”CAS”をハイライトしてみました。

BTPなどの最新テクノロジーは情報量が充実し、トライアル環境を利用して比較的簡単に触れられるようになってきています。しかし、RISEのインフラ運用は情報量が少なく、先行してお試しができる性質のものでもありません。本ブログの内容も教科書的な記述に留まっており、実際は「このような運用ケースはどう考えるのか?」、「この運用項目はどこまでカバーしてくれるのか?」と言った疑問が必ず出てきます。個々のケースは公開されないため、都度確認が必要になります。

運用は避けては通れず長期に渡るため、当たり前の運用が当たり前のように実現できてこそ、そのRISE移行は成功したと言えるはずですが、どのような運用にも課題は付いてまわるため、根気強く改善に向き合う姿勢も大切です。纏まりも何もありませんが、これからS/4HANA Cloudでの運用を検討される際に、このブログが少しでも参考になれば幸いです。

最後までお読み頂きありがとうございました。
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