*この記事は
SAP Advent Calendar 2020 の12月8日分の記事として執筆しています。
進まないS/4HANA移行
ー なぜS/4HANAへ移行しなければならないのか。
ー なぜ今なのか。
ー 何を活用してどう移行するのか。
多くの企業はこのような疑問を抱え、S/4HANA移行に慎重な姿勢を見せています。
SAPは2020年2月にERP保守期限延長を発表。その結果、EHPのアップデートで延命を図る動きも散見され、S/4HANA移行のブレーキ材料となりました。
さらに、新型コロナウィルスの影響によるIT投資意欲の鈍化、2025年の崖に対応する(脱SAPも含めた)次世代基盤の模索など、社会情勢の変化もブレーキに拍車を掛けています。
進まないS/4HANA移行。
このような苦しい状況下にある一方で、疑問や課題を解消しながらS/4HANAへの移行を支援する「S/4HANA Movement」が活気を見せています。
S/4HANA Movement - 4 Steps to Move -
それは、SAPが提供するツールやアプローチを駆使して、お客様のS/4HANA移行をシンプルに実現するための支援プログラムです。SAPが中心となり推進し、多くのプログラムが無償で提供されています。
S/4HANA Movementは2018年の半ばにlaunchされましたが、当時は情報や資料が点在し、一連の繋がりが分かりにくい状態でした。
時を経て2020年6月、体系的にSupport Potal上に集約され、4つの”MOVE”を軸とするストーリー性のあるプログラムに進化しました。全てのMOVEを実施する必要はなく、状況に応じて必要なものだけをチョイスしてS/4HANA移行を目指します。
SAP S/4HANA Movement in SAP Support Portal
現時点では、掲載情報/資料は英語のみです。横文字のキーワードも多く、各文献も長大です。また、日本ではまだ利用できないプログラムもあるかと思います。本Blogでは、S/4HANA Movementの全体感/外観が手早く掴めるよう、ポイントを日本語でサマリ/補足しながら、
点ではなくストーリーで見るS/4HANA Movementとしてご紹介したいと思います。
Step 1: 要件の明確化(Align on Vision & Strategy)
お客様自身のビジネスニーズと、それに対するS/4HANAへの期待値は何なのか。
Step1ではこれを徹底的に明確化していきます。
その一歩を踏み出す手助けとして、SAPは下記3つの手段を提供しています。
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SAP S/4HANA
Move in Motion |
SAP S/4HANA
Simulation Game |
SAP S/4HANA
Virtual Board Game |
概要
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ビジネス/システム上の課題をDesign Thinking手法で議論し、中長期でのプランやステップの全体像を描いていくプログラム。
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SAPが提供するS/4HANAマシンを使用し、一定のシナリオに基づいたシミュレーションを体感して議論する。
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オンラインゲーム感覚で楽しめる双六。Capability/Value カードを使い、指示に従い進めるとS/4HANA移行に必要なTodoが自然にアウトプットされる。
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形式
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ディスカッション形式のワークショップ
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ハンズオン形式のワークショップ
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セルフ形式のオンラインゲーム
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期間
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2時間
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2~3日
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1.5時間
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特徴
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議論を通して、個々のお客様の状況に応じたS/4HANA移行の着手ポイントや享受メリットを明確にできる。
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ERPとS/4HANAの違いを実機で体感し、ロールプレイと議論を通して変化点を掴むことができる。
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S/4HANA移行に必要なハイレベルなTodoを手早くイメージできる。
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情報参照
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Step 2: 計画の策定(Build the Case)
ERPからS/4HANAへ移行した場合に、何がどう変わるのかというGap分析から始まります。
Step2では、SAPのツールやサービスを使いお客様の状況に応じたTransformation Planを作成するための材料を揃えて計画のインプットにしていきます。
Planning Tools
SAPは下記4つのPlannning Toolsを提供しています。いずれも着眼点は異なりますが、アウトプットとして分析レポートが提供される点は共通です。
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SAP Business Scenario Recommendations |
SAP Transformation Navigator |
SAP Readiness Check for SAP S/4HANA |
SAP Value Lifecycle Manager |
概要
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LoB単位での業務上の問題点把握、移行後の改善予測をするサービス。ERPから特定データを抽出/アップロードすると、システム上のユーザ導線が解析されレポートとして提供される。
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現在使用中のSAP製品群を基に、Intelligent Enterpriseへの道のりをナビゲートするツール。自社に合った3つのガイド(Business、Technical、Transformation Gude)がレポートとして提供される。
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S/4HANAへ移行した際のシステム影響分析サービス。基礎的な情報をアップロードすると、Simplification Itemチェック、アドオンプログラム影響、推奨Fiori等が分析レポートとして提供される。
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SAP製品の購入~使用のサイクルに着目したIntelligent Enterprise化支援ツール。SAPのKPI/Best Practiceと比較したハイレベルのPotential Benefit金額等がレポートとして提供される。
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形式
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SAPによる分析レポートサービス
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セルフ形式のWebツール
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セルフ形式のWebツール
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セルフ形式のWebツール(パートナーのみ使用可)
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計画範囲
Modification
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S/4HANAへの移行
Customizaion/Modification
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SAP製品群の移行
Customizaion/Modification
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S/4HANAへの移行
Customizaion/Modification
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SAP製品群の移行
Customizaion/Modification
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特徴
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移行メリット、ERPからの変化点、計画上享受できるSAP支援内容がわかる。
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自社のSAP製品群を進化させるためのプロダクトマップ、取組み優先順位がわかる。
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移行した場合の技術観点の影響がわかる。
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自社のSAP製品群を進化させた場合の将来のコストメリットがわかる。
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情報参照
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Engagement Model
SAPは下記2つの計画支援サービスも提供しています。
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SAP S/4HANA Value Starter Engagement |
SAP S/4HANA Value Discovery Engagement |
概要
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SAPのExpertが先述のPlanning Tool群を駆使し、ビジョンの明確化、ターゲット製品の特定、コスト見積り、移行アプローチの選定までをTotalで行うサービス。これらを基にハイレベルのPJプランが提供される。
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SAPのExpertがコア業務の分析、適用できるS/4HANAケイパビリティをマッピング。アーキテクチャ、移行シナリオ、ロードマップ等が提供される。申込む側もCIO、PM、SMEの参加が必須となる。
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形式
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コンサルティング形式
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ディスカッション形式のワークショップ
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期間
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6週間
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3日
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特徴
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S/4HANA移行プロジェクトを始めるための詳細な情報が揃う。
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S/4HANA移行プロジェクトを始めるためのハイレベルな情報が揃う。
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情報参照
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Step 3: 移行アプローチの決定(Plan the Path Forward)
移行先のS/4HANAのシステムは、クラウドやオンプレ等いくつか基盤形態の選択肢があります。また、実際の移行に向けたSAP独自のアプローチもあります。
Step 3では、移行後の運用コスト/運用の自由度等を考慮した基盤形態と、コンバージョン/新規インストールといった実際の移行アプローチを決定していきます。
Deployment Strategy
SAPは下記の基盤形態をサポートしています。
(世の中にたくさんの情報ソースが出ていますので詳細は割愛します。)
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SAP S/4HANA Cloud(Essential Edition) |
SAP S/4HANA Cloud(Extended Edition) |
SAP HANA Enterprise Cloud(HEC) |
SAP S/4HANA(On-Premise/Private Cloud) |
概要
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SAPが提供するクラウドサービス。複数顧客でテナントを共有する。
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SAPが提供するクラウドサービス。単一顧客でテナントを占有する。
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SAPが提供するクラウドサービス。Customer Editionも6月に登場。
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顧客が独自で管理する環境。
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サービス型
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SaaS
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SaaS
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PaaS
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On-Premise / IaaS
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ライセンス
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Subscription
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Subscription
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BYOL&インフラSubscription
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Perpetual or BYOL
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管理主体
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SAP (Only)
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SAP or Hyperscaler
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SAP & 顧客
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顧客
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インフラ提供
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Hyperscaler
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Hyperscaler
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SAP or Hyperscaler
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顧客 or Hyperscaler or Cloud Vendor
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Updateサイクル
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4回/年
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2回/年
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1回/年 or スキップ
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1回/年 or スキップ
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Updateタイミング制御
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不可能(SAPが決定)
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可能(顧客が決定)
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可能(顧客が決定)
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可能(顧客が決定)
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拡張性
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Key user拡張
Side by Side拡張
Customizaion/Modification等、ERP時代と同様
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Key user拡張
Side by Side / In-App拡張
Customizaion/Modification等、ERP時代と同様
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Customizaion/Modification等、ERP時代と同様
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Customizaion/Modification等、ERP時代と同様
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移行方式
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Green (Only)
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Green or Selective Data Transition
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Green or Selective Data Transition
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Green or Brown or Selective Data Transition
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Implementation Approach
SAPは以下3つの移行アプローチをサポートしています。
ダウンタイムや移行後の過去データ保持範囲など、様々な観点で決定していきます。
(世の中にたくさんの情報ソースが出ていますので詳細は割愛します。)
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System Conversion |
New Implementation |
Selective Data Transition |
概要
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Brown Fieldアプローチ。ERPをそのままS/4HANAへ移行する。マスター/全トランザクション/過去データ、カスタマイジング等の全てを移行する。
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Green Fieldアプローチ。新規にS/4HANAをインストールし、必要最低限のデータをERPから移行する(マスター/Openトランザクションデータ等)。
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Shellコンバージョン(Brown寄り)とMix&Match(Green寄り)の2つの手法がある。いずれもデータを選択的に移行する(マスター/Openトランザクション/直近の過去データ等)。
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主要ツール
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SUM(Software Update Manager)
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Migration Cockpit
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DMLT(Data Management and Landscape Transformation)
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特徴
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作業プロセスは比較的シンプル。BP変換等のマニュアル作業、SUMを使ったツール作業からなる。データ量が多い場合はダウンタイムが長くなる。
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作業プロセスは比較的シンプル。ファイルやステージングテーブルを駆使してデータを転送する。オブジェクトによっては項目マッピングが発生し複雑な作業となる。
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Brown/Greenの良い点の組合せ。Shell コンバージョンは、マスター/トランザクションデータを除外してコンバージョンし、絞った必要なデータを後から転送する。Mix&Matchは、新規インストールし、絞った必要なカスタマイジングやリポジトリを後から転送する。ダウンタイム短縮が必要な際に検討されることがある。
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実施者
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SAP/パートナー/ベンダー
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SAP/パートナー/ベンダー
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SAP専任チーム
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Step 4: 実行(Deliver Business Value)
Step 4では実際の移行を進めていきますが、実行の主体はSAPだけでなくパートナーやベンダーにも広がり一様ではありません。手法や方法論、進め方にも違いが出るため、ここではSAPが提供しているソリューション支援にフォーカスして記載します。
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SAP Advanced Deployment |
Partner Conversion Factories |
SAP S/4HANA Customer Care |
概要
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SAP自身によるS/4HANA移行サービス。
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SAPパートナーによるS/4HANA移行サービス。
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SAPによるS/4移行を支援するサービス。
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特徴
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SAPがフルアサインでプロジェクトを進める。
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S/4HANA移行に関するパッケージ認定を取得したSAPパートナーがプロジェクトを進める。
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SAPがプロジェクトコーチとして本稼働まで定期的にIssue解決をサポートするサービス。
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提供者
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SAP
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SAPパートナー
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SAP
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情報参照
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ここまで通り抜けて来ると、S/4HANA Movementのストーリーは完結します。
S/4HANA移行後の目指す方向性
S/4HANA移行が完了したのち、私達はどこへ向かうのでしょうか。
SAPの先端技術は急速に発展しており、盛り上がっては下火になるような技術もあります。目まぐるしく状況が変遷していく中、多種の文献、類似の絵図、複雑な解説などが交錯し、時折進むべき方向が分からなくなる場合があります。
(完全なPersonal Insightですが)そのような時、必ず立ち返るシンプルな図があります。
概念としての、In-AppとSide-by-Sideの両輪。それをつなぐIntegration。
技術としての、S/4HANAとSAP Cloud Platformの両輪。それをつなぐSCP Integration。
これらを継続的/発展的にExtensionしてIntelligent Enterpriseへ向かうというのがSAPが目指している姿です。
従来のコア(ERP)の内にあるSAPモジュール群から、新しいコア(S/4HANA)の外にあるサービス群に目を向けていきます。そして、お客様のビジョンやストラテジーに合わせてExtensionを選択するために、立ち位置を確認しながら、常に最新技術に目を見張っていくことは大切な心構えだと言えます。
2020年12月8日。SAP TechEd 2020が始まります。
S/4HANA Movementの全体感と、S/4HANA移行後の目指す方向性を意識しながら、今年もたくさんのSession/Hands-Onで最新技術を深堀したいと思います。
長文、最後までお読み頂きありがとうございました。