はじめに
S/4HANA Cloud の 推奨ユースケースとして 2-Tier モデルがあります。推奨しているからには、
べスプラにも資料があるだろう、と思って見に行ったところ、96ページにわたるビジネスプロセスの説明資料や、それぞれのビジネスシナリオに関連するユーザガイドが30種類くらい用意されていました。
SAP S/4HANA Cloud for Hybrid Deployment (2-Tier ERP)
ありがたいのですが、最初から読むには、重い…
ので、まずは、
- 2-Tier で何が嬉しいの?
- 2-Tier のとき、データ接続はどうなるの?
を中心に、調べてみようと思いました。
この記事は
chillSAP 夏の自由研究2022の記事として執筆しています。
2-Tier で嬉しいこと
もともと、グローバル企業にSAPを入れます、というときには、
まず本社にSAPを導入して、
それをグローバルテンプレートとしてロールアウトしていく、
という話が普通にあったかと思います。
しかしながら、大規模で複雑なビジネスプロセスを持っている本社のニーズと、小規模で機能が限定されている子会社のニーズは異なるよね、というのが、2-Tier モデルの出発点にあるようです。
地域のマーケットの変化に合わせて、柔軟に動きたいのに、本社と同じシステムを使っていたら、足かせになってしまう。なので、独自のERPを使いたい。
もしくは、M&Aで買収した会社に手っ取り早くシステムを入れたい、といったケースも想定されます。
そして、その独自のERPシステムが、S/4HANA Cloud だったら、SaaSだから所有しなくて良いし、データやプロセスは同じSAPで本社と揃えやすいし、色々良いね、となります。
S/4HANA Cloud を Tier 2 で利用するメリット
- SAPのベストプラクティスのビジネスプロセスが適用できる
- S4HCの半期ごとのアップデートで、Machine Learning などの最新テクノロジーを活用したアプリがオンプレ S/4HANA に先行して利用できるようになるため、マーケットに対するアドバンテージになる
- Tier 1 の オンプレS/4HANA(あるいはECC)との統合が容易
- ユーザエクスペリエンスを統合できる
- 国別の要件に対応できる
- ITインフラをシンプルにし、コストを削減できる
- ビジネスの変化に対し、インサイトを得て、素早く行動することができる(プロセスの例外の通知など)
- コーポレートガバナンスの観点で、可視化ができる
- データ移行のツールセットが活用できる
参考:ホワイトペーパー
Two-Tier ERP with SAP S/4HANA Cloud and Deployment Possibilities
想定される導入パターン
以下の3つのパターンが想定されています。
- 本社/子会社モデル
- セントラルサービスモデル
- サプライチェーンエコシステム

自分はこれまで、本社/子会社パターンしかイメージできていませんでした。
2. のオプションは、LoBの一部を切り出して、S/4HANA Cloud を利用しよう、という発想です。たとえば、経理機能のシェアードサービス化や、プラントを中央管理するようなシナリオが紹介されています。
3.は、需要の変動が過剰在庫を引き起こしてしまうような「ブルウィップ効果」を防ぐために、サプライチェーン全体を可視化できていた方が良いよね、というお話でした。
そういうのがあるのだな、というのを踏まえて、今回は1.の 本社/子会社パターンの、特に会計領域を中心に見てみました。
会計領域の例
- 財務計画
- 連結会計
- 子会社データ(資金など)の可視化
- 顧客からの支払の統合
財務計画
トップダウンで予算計画をする場合は、本社のSAPシステムで計画を立てて、それをS4HC側の財務計画アップロード機能からアップロードすることができます。
あるいは、SAP Analytics Cloud を使う方法があります。この場合、本社のユーザも、子会社のユーザも、財務計画のプロセスに直接かかわることができます。
連結会計
連結会計のやり方は4つ紹介されています。
- Central Finance にすべての財務伝票を連携して実施する
- SAP BPC (Business Planning and Consolidation) で実施する
- S/4HANA Cloud の連結会計ソリューションで実施する
- 本社が使っている連結ソリューションにAPIでつなぐ
この中で断然興味深いのは 3. のオプションです。(ただし実績値の連結のみ)
S/4HANA Cloud で連結会計を実施するメリット
- 法的な連結会計報告のための、シンプルな構成
- データ品質をソースシステム側で担保できる(後からの調整でなくて良い)
- 別の連結ソリューションのコストが不要
- 3rd Party の ERPシステムからもデータ取込可能
子会社データの可視化(資金管理)
本社は、API を使用して、子会社からリアルタイムの資金の可視性と流動性ステータスを取得することができます。
顧客からの支払の統合
BTPの顧客支払ソリューションを利用した場合には、本社と子会社両方の支払要件に対応することができます。
販売領域の例
- ローカル在庫からの販売
- 本社管理の在庫からの販売(本社からの出荷)
- 返品の管理と返金の処理
- 子会社から調達した本社の購買
2個目の例では、顧客に対して本社から直接出荷するビジネスプロセスとなっている場合に、本社と子会社間のデータのやり取りが自動で作成されるような仕組みができるようです。

詳しくは、こちら
#S4HANA Cloud 2-Tier ERP series: 2 – Running Local Sales Office
購買領域の例
- 子会社が直接購買した内容を本社にて可視化する
- 本社が子会社の内部サプライヤとして集中購買で調達する
- 補充
生産領域の例
- 生産組織および内部サプライヤとしての子会社と本社の統合
- サードパーティの倉庫管理システムとの統合
- MESとの統合
データのつなげ方
シナリオによっても異なるのですが、基本的には BTPの Integration と、Cloud Connector を経由して接続します。
a)本社から子会社への接続
オンプレS/4HANA(あるいはECC) -> BTP Integration -> SAP S/4HANA Cloud
b)子会社から本社への接続
SAP S/4HANA Cloud -> BTP Integration -> Cloud Connector -> オンプレS/4HANA(あるいはECC)
マスタデータ統合
ビジネスパートナマスタと、製品マスタの統合については、S/4HANA Cloud の
スコープアイテム1ROを使って直接統合できるようになりました。(2105アップデートより)
それ以外のマスタデータの場合、
- MDG(SAP Master Data Governance) を使った統合
- DRF (SAP Data Replication Framework)を使った統合
- APIを使った統合
- BTP Integration を使った統合(APIやIDocも使う)
というオプションがあります。
参考:
#S4HANA Cloud 2-Tier ERP series: 8 Master Data in 2-Tier ERP
おわりに
本当にたくさんのビジネスユースケースが用意されているので、導入する会社のニーズに合わせてどのシナリオを使うのか見極めないといけないのだな、ということがわかりました。
日本では、
こちらの記事にあるように、大和ハウスさんや日立ハイテクノロジーズさんの導入事例が(2019年から)あります。
今後も活用されるケースが増えていくのではないかな、と思っていますし、そのような機会があった時には、今回調べたことを活用して、最適なシナリオを選びたいと思います。
参考資料
2-Tier ERP ブログシリーズ
S/4HANA Cloud Two-Tier ERP FAQ’s