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クラウド時代のBasis


RISE with SAPが世に出てから2年ほど。

物事はクラウド前提で進むようになり、始めたい時に始められるサービスが増えています。S/4HANAもクラウドになり、その基盤運用はSAPが担当する形に変わってきています。オンプレミスでは必須だったハードウェア調達、基盤設計、インストール、システム運用など、かつて求められたBasisらしさは簡素化され業務量が減ると言われた時期もありました。さて、その実態はどうなのでしょうか。今回は”Basisの今”にスポットライトを当てて綴ってみたいと思います。

*この記事は SAP Advent Calendar 2022 の12月17日分の記事として執筆しています。


 

新たなBasisの役割


当たり前ではありますが、世の中にはS/4HANA Cloudを使う人(ユーザー)と提供する人(SAP社)がいます。需要と供給ということで円滑に準備が進みそうな気配です。しかし、もうひとり役者がいないとS/4HANA Cloudは準備できません。それは段取りをする人(パートナー)です。段取りをする人と言うと大変地味な響きですが、実はBasisが担当しています。

この役割、あまり広く知られていませんが、Partner Cloud Architect(PCA)と呼ばれています。ユーザー企業とSAP社の間に立ち、S/4HANA Cloudの環境準備を推進します。広く知られていない理由の一つに、SAPからパートナーだけにしか情報が提供されていないことが挙げられます。たくさんの資料が配布されていますが、ここにそのままお載せ出来ないのがもどかしいです。

 

PCAのタスク内容


簡単に纏めると、PCAはS/4HANA Cloudの環境準備で下記の事柄を実施しています。
















































Todo 内容
1 PCA認定の取得 トレーニングを受け、S/4HANA Cloudの知識を習得して認定を得る。
2 見積り依頼 ユーザー要件を纏め、SAPに見積り作成を依頼する。
3 見積りレビュー 作成された見積りをレビューし、抜け漏れを補完する。
4 プレゼンテーション 全体のシステムランドスケープを資料に纏め、ユーザーにプレゼンする。
5 契約前チェックリストの作成/提出 専用の資料を纏めてSAPに提供し、契約締結の準備をする。
6 環境パラメータ資料の作成/提出 専用の資料を纏めてSAPに提供し、環境構築を依頼する。
7 説明会への参加 SAPが開催する環境構築の事前説明会に参加する。
8 環境の受領 SAPが構築した環境を引き受ける。

ここまで終えて、ようやく空っぽのS/4HANA Cloud環境が引き渡されます。データ移行を含む本来の環境構築はこの後開始していきますので長丁場です。

実は上記のタスク群、スムーズには流れません。SAPでの細かなチェックが入るため、何度も資料の修正を繰り返し、行ったり来たりを繰り返します。1日の遅れが契約の遅れ、環境デリバリーの遅れに直結してしまうためプレッシャーが掛かります。この一連のプロセスには通常でも1か月以上かかるため、十分なリードタイムが必要です。いわゆるクラウドのスピード感は感じられず、加えて裏方作業なのでかなり地味な業務です。

実機を使った技術的な腕の見せ所はなく、仲介人として腕の見せ所が求められます。確かにBasis知識が必要なのですが、オンプレミスの時と比べるとあまりBasisっぽさはありません。

 

PCAが読む多くの資料


PCAは下記のような資料を読み解いて物事を進めます。これらは一般公開されている部分的なもので、他にも確認すべき資料が多数ありますが、その情報量にまず圧倒されます。全部は頭に入らないので、要点を選別して抑えた上で、必要な時に必要な資料を見ていきます。

Service Discription Guide (通称 SDG):S/4HANA Cloudの基本サービス説明書

Role & Responsibility Matrix  (通称 R&R):S/4HANA Cloudでのタスク役割分担表

Cloud Application Services (通称 CAS): S/4HANA Cloudの追加サービス説明書

・・・等々。

これらの内容を熟知した上で、上記の表に記載のタスクをタイムリーに遂行していきます。

 

PCAが活躍するフェーズ


PCAが主に活躍するのは上述の環境準備フェーズになりますが、本来はプロジェクト予算策定段階から入るのが望ましいはずです。理由は、要件に応じて追加しなければいけない付帯サービスが複数あり、コストに関わるためです。PCAとしての基礎知識がないと、最初から予算に盛り込むべき情報が抜け落ちてしまい、後日追加コストが発生してしまいます。Green/Brown Fieldの判断も行いますが、誤った情報で構築が始まってしまうと作り直しの追加コストも発生してしまいます。この判断にはパターンがいくつかあります。例えば、開発機はBrown、検証機/本番機はGreenといった特殊な選択肢もあり、何を基準にどう決めるかはPCAの知識にかかっています。

稼働後の運用フェーズはどうでしょうか。運用時にも上記のR&Rが引継がれ、運用要件に応じてCASの追加購入も発生し得ますので、PCAの知識はそのまま活かすことができます。また、クライアントコピーなどのSAPへの依頼作業は全てサービスリクエスト専用画面(英語)から行うため、導入フェーズ中にこれを使用していたノウハウも流用できます。

PCAは導入プロジェクトから稼働後運用まで、幅広く活躍できます。

 

PCAがいないと?


もともとBasisは地味ですが、さらに地味さがにじむPCA。しかし、このPCAを担うBasisがいないと世の中のS/4HANA Cloud移行は進まず、Side-by-Sideな世界も生まれません。

加えて、S/4HANA Cloudは基本サービス内容が頻繁に変わります。PCAは4半期に一度、SAPが数日にわたって開催するコーチングセッションに参加し、知識を常にUpdateする努力が求められています。地道にキャッチアップしてすぐに活動に反映しなければ、上表のタスクが進みません。

一連の環境構築は、プロジェクトのスケジュールに関わりますし、コストにも関わります。Basisが役割を担っていますが、その全体感はS/4HANA Cloudを導入するPMも知っていた方がよさそうです。

 

おわりに


”Basisの今”。あまり知られていないPCAの存在にスポットライトを当ててみました。

現在、日本でのS/4HANA CloudはPrivate Editionが主流ですが、今後はサービス内容が異なるPublic Editionも流れに加わってきそうです。Private Editionとは基盤の仕組みが異なるため、新たに学ばなければならない事柄が出てくるはずです。これもBasisが担うのでしょうか?Basisはこれまでと一味違った心構えで業務に向かうようになるかもしれません。

ここまではS/4HANA Cloudの話でしたが、もちろんS/4HANA Cloudの外側でもBasisの仕事はたくさんあります。BTPの発展、SaaSの発展と共に少しずつ変わるクラウド時代のBasis業務。またの機会で触れたいなと思います。

 

文ばかりとなりすみません。最後までお読み頂きありがとうございました。

 
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